韓国のドラマ制作会社が軒並み赤字にあえいでいる。日本などアジアを席巻した“韓流ブーム”以降、大物俳優の出演料が天井知らずに高騰して制作費を圧迫し、ヒットしても採算が取れない異常事態に陥っているというのだ。出演料未払いをめぐる出演者対制作会社の泥沼の訴訟騒動にも発展。不況によるCM収入の減少や粗製乱造による質の低下も加わり、「韓流ドラマ」はまさに存亡の危機に立たされている。
■韓流スターvs制作会社…“仁義なき戦い”
韓国で昨年末、韓流スターが自らドラマ出演料の引き下げを申し出る現象が相次いだ。
ドラマ「天国の階段」や日本向け広報大使を務めたことでも知られるクォン・サンウさん(32)が昨年12月、新作ドラマの1話当たりの出演料を1500万ウォン(約100万円)以下に抑えると表明。直前の出演作と比べると3分の1に満たない額だ。
クォンさんと並ぶ韓流スター、ソン・スンホンさん(32)も出演料の50%カットに同意したと発表。ソンさんは、韓国メディアに「ドラマの人気が出ても制作会社やスタッフは相変わらず苦しいのが韓国ドラマの実情。ともに働くものとして苦しさを分かち合いたい」と理由を語った。
「冬のソナタ」で知られるチェ・ジウさん(33)の事務所も韓国メディアに出演料削減を明らかにするなど、韓国芸能界でひとつの“潮流”ができあがっている。
だが、美談ばかりでない。逆の動きも表面化している。
人気女優、キム・ヒョンジュさん(30)が未支払い出演料1億ウォン(約650万円)の支払いを求め、制作会社や前所属事務所を訴えるなど、訴訟沙汰も起きている。
大物俳優、パク・シニャンさん(40)が未支払い出演料など3億8000万ウォン(約2500万円)を求め、制作会社を訴えた裁判では、韓国ドラマ制作社協会(ドラマ協会)がパクさんのドラマへの出演を無期限停止にする対抗措置を取り、芸能界を騒然とさせた。
「1話当たり1億7000万ウォン(約1100万円)という法外な出演料を要求し、ドラマ市場の共倒れを招いた」
これがドラマ協会側の言い分だ。
まさに韓流ドラマの生存をかえけたスター対制作会社の仁義なき戦いが勃発している。
■ヨン様、報酬は4億円!?…赤字にあえぐ制作会社
《ペ・ヨンジュン、推定2億5000万ウォン(約1600万円)
ソン・スンホン、同7000万ウォン(約460万円)
クォン・サンウ、同5000万ウォン(約330万円)
チェ・ジウ、同4800万ウォン(約320万円)…》
韓国ドラマプロデューサー協会の資料をもとに韓国の大学教授が昨年末に公表した韓流スターのドラマ1話当たりの出演料だ。50〜100話と続く韓国ドラマの常識から考えると、総額のすごさがうかがえる。
日本でも放映された大型時代劇「太王四神記」でペ・ヨンジュンさんには60億ウォン(約4億円)が支払われたと、韓国のテレビ局「MBC」労働組合が発表。ペさんの事務所は「著作権料などが含めれており、正確な出演料ではない」と反論しており、割り引いて考える必要があるが、韓国で音楽番組への出演料が20〜30万円というからドラマ出演料がいかに突出しているかが分かる。
「太王四神記」では、最終回を迎えても出演者に報酬が支払われないという問題も浮上した。制作したプロダクションはその後もヒット作を生んだが結局、巨額の赤字を出した。
同じく時代劇「イサン」でも視聴率30%を記録したにもかかわらず、制作会社が15億ウォン(約1億円)の赤字を抱え、出演料が支払えない状態だと韓国メディアが伝えた。
主人公ら看板スターに報酬を支払うと、予算がほとんど残らず、美術や照明といった制作スタッフには給料も支払えない深刻な事態が浮かび上がっている。
韓流ドラマ輸入にかかわる日本の関係者は「『あそこのドラマ制作会社がつぶれた。大手でもあそこはヤバイ』という話をよく耳にする」と打ち明ける。
■出演料制限も…「ヨン様、クォン様は特別枠」マル秘リスト
そもそも、韓流スターの出演料はそれほど高いわけではなかった。韓国芸能界に詳しいライターの児玉愛子さんによると、スタークラスでも500万ウォン(33万円)ほどだった出演料が高騰し始めたのは、「冬のソナタ」の放映が韓国で始まった2002年ごろから。台湾や香港では、すでに韓流ドラマのブームが始まっていた。
「海外で売れる女優らの出演料が跳ね上がり、それより格が上のスターの出演料も上がるというように連鎖的に高騰していった」(児玉さん)という。
そのうち、「人気スターのキャスティングありきで、脚本もできていないのに制作に入り、赤字になる結果を招いた」(同)。
歯止めが利かない出演料の高騰に、KBSなど主要テレビ局3社とドラマ協会は昨年11月、1話当たりの出演料を1500万ウォン(約100万円)に抑える「出演料上限制」を提案した。ところが、今年に入って「ドラマ協会が『制作費項目別上限額推薦案内』という俳優リストを各制作会社に配布した」と報じられ、バッシングを浴びた。
ペ・ヨンジュン、ソン・スンホン、クォン・サンウ、チャン・ドンゴン…。
リストには日本で知られる韓流スターの名前が並び、「日本向け版権販売額から制作会社の裁量で(上限額とは)、別途に奨励金を支払うことが可能だ」と記されていたため、「制限を定めた当事者が抜け道をつくるとは何事だ!」となったのだ。
これまで視聴率を稼いできたドラマに陰りもみえ始めた。
03年に13%を超えた韓国のドラマの平均視聴率も昨年は11%に低下。メディアからは、「韓流ドラマは不倫や出生の秘密ばかりでマンネリ」「ストーリー性に欠ける」との批判が噴出している。
1997年の通貨危機以来、最悪といわれる不況に伴うCM収入の激減が追い打ちをかけ、高視聴率が見込める時間帯の放送を制作費がかさむドラマをやめてバラエティー番組にするテレビ局が相次いだ。
■日本原作が救世主…原点回帰の動きも
一方、日本はいまだ「韓流バブル」を謳歌している。
韓国政府の統計では、昨年の韓国ドラマの海外輸出額は、前年に比べ6・3%落ちたものの、9326万ドル(約82億円)に上った。輸出先の6割が日本で、「ドラマの赤字、黒字は日本次第」との構図が固定化しつつある。
韓流ドラマ輸入にかかわる日本企業の担当者は「輸入の新規参入も多く、有名スターの出演作は買い尽くされ、新しいトレンディードラマまで買われる状態。競争が激しく、販売額も落ちていない」と説明する。
「DVD販売などが落ちているが、本国に比べタイムラグがある」(輸入担当者)。だが、韓国側では、「ヨン様頼みではいずれ飽きられる」と懸念の声が挙がっている。
こうしたなか、日本漫画をドラマの原作にする動きが出ている。「世界中で人気の日本漫画にあやかり、ストーリー性不足を補おう」というのだ。
ドラマより先に低迷が表面化した映画界でこの動きが始まり、整形手術した女性の奮闘を描いた漫画「カンナさん大成功です!」をもとにした映画は観客動員数660万人を記録した。
台湾でドラマ化され、ブームとなった学園漫画「花より男子」が韓国でも昨年末からドラマ放映され、24・8%の高視聴率をマーク。出演した若手俳優を中心に「イケメンブーム」にもなっている。大学受験を描き、日本で累計600万部を売り上げた漫画「ドラゴン桜」のドラマ化も計画されているという。
ただ、これは抜本策とはいかないようだ。
日本の業界関係者は「日本への輸出に頼らず、まずは国内で制作費を回収することを考えることが先決。韓国には、オリジナリティーある作品を生み出す力を持った若手制作者もおり、もっと活躍の場をつくるべきだ」と話す。
新たな兆候も見える。特段、スターも出演せず、注目もされなかったドラマが昨年、放映当初1けた台だった視聴率を27%超に伸ばした。出生の秘密や復讐劇といった“古典的”テーマが内容だが、緻密に描かれた人間模様がヒットにつながったとされる。
児玉さんは「韓流ドラマは本来、ドロドロした愛憎劇が日本の女性にも受け入れられたわけで、スターに頼らず、いかに作品そのものの力で“みせる”かに韓流ドラマの今後がかかっている」と指摘している。
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